夫婦の不思議

若い頃、映画の仕事をしていたおじいさんがいる

おじいさんが生活している部屋の壁には、自画像家族を描いた絵
お気に入りの新聞の切り抜き雑誌の切り抜きがたくさん貼ってある

ちょっとした、ギャラリーのようだ

ある朝、いつものように職員が、おじいさんの部屋を訪ねると、
車椅子に座ったまま、ぐつたりとしていた
何度目かの脳梗塞を、発症していた

大事に至らず、しばらくすると搬送された病院から帰ってきた

玄関ホールの椅子に座った奥様の手をぎゅっと握って
「命拾いしたよ、よかった、よかった」と、奥様へ何度も伝えていた

奥様に笑顔があまりなくて、不思議に思っていると

実は、奥様は持病が悪化していて、入退院を繰り返していた

ある日を境に、おじいさんが何度も同じことを言うようになった
「奥さんに会いたい、顔が見たい、心配なんだよ」

家族は迷っていた、入院中の奥様はかなり弱っていて、
会うことで、おじいさんが落ち込んでしまうことを心配した

でも、今なら会える

職員が付き添って、車椅子のおじいさんは、入院中の奥様のお見舞いに行った

しばらくすると、奥様は亡くなり、家族がお葬式の帰り際、
玄関ホールで、おじいさんの手をぎゅっと握っていた

がんばるよ、がんばれよ、おじいさんと家族は涙を流しながら励まし合っていた

それから、車椅子のおじいさん、目が合うと、にこーっとされて
内ポケットから大事なものを見せてくれる

「おれの、御守り、奥さんだよ」

小さな巾着の中に、奥様の形見が入っている

6年前は、頑固なタイプのおじいさんだったけれど、
この頃、にこーっとされて、優しい笑顔が多い

いくつ年を重ねても、悲しい出来事はあるのだなぁ
それでも、それだから、柔らかい笑顔になるのかなぁ

私は、乳ガンもアトピーも経験した、だから弱いからだでしょうがないと思っていた
けれども、健康を取り戻して、元気いっぱい働きたい理由があるから、

ここで働くうちに、私は強くなりました